コラム

地方税の法人住民税均等割の改正によって、①資本欠損のある会社は無償減資により法人住民税均等割が減る可能性が、②自己株式を取得している会社は法人住民税均等割が増える可能性が、あります!

2016/08/30
1.法人住民税均等割の税制改正

平成27年4月1日開始事業年度から、均等割の算定について2点変更になっています。

(1)「資本金等の額」の算出方法の変更
【改正前】法人税法第2十六に規定する資本金等の額
【改正後】改正前の資本金等の額に次の調整を行った額(地方税法第23➀四の五、同法第292四の五)
 資本金等の額+無償増資(※1)-無償減資(※2※3)
(※1)平成22年4月1日以後におけるその他利益剰余金を資本金とし又は利益準備金の額の全部若しくは一部を資本金とした金額
(※2)平成13年4月1日から平成18年4月30日までの間に、資本又は出資の減少による資本の欠損の填補に充てた金額並びに資本準備金による資本の欠損の填補に充てた金額(※3)平成18年5月1日以後にその他資本剰余金を損失の填補に充てた金額(資本金又は資本準備金を減少し、その他資本剰余金としてから1年以内に損失の填補に充てた金額に限ります。)

(2)上記1.の調整後の「資本金等の額」と「資本金+資本準備金」を比較して大きい方の金額が均等割の税率区分の基準になります。
   
*法人住民税均等割の税率区分の基準となる「資本金等の額」は、下記2.の外形標準課税における資本割の課税標準である「資本金等の額」と同じになりました。


2.外形標準課税における資本割

平成16年4月1日以後開始事業年度分から資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人が外形標準課税の対象となりました。資本割の課税標準である資本金等の額は、欠損填補のために無償減資した場合は、減資による欠損填補額を控除するとされていました(改正前地方税法附則第9➃十二)。

H22年度税制改正後は、資本金等の額は、無償減資等による欠損填補額を控除し、無償増資等があった場合には増資相当額を加算するものとされました。(地方税法第72の21➀)

H27年度税制改正により、以上により算定される資本金等の額よりも「資本金+資本準備金」が大の場合は、課税標準である資本金等の額は「資本金+資本準備金」となりました。(地方税法第72の21➁)


3.法人税法の資本金等の額
平成13年4月1日以後開始事業年度から、無償減資及び無償増資が行われた場合、税務上はこれらの増減資が行われなかったものとされました。(法人税法施行令第8➀十二、十三)


4.平成13年企業組織再編税制から、外形標準課税を経て、法人住民税均等割の改正にいたる経緯

平成13年3月31日までは、配当可能利益の資本組入れ(無償増資)は、みなし配当課税が行われ、資本金又は資本積立金が増加し、無償減資により欠損金を填補した場合には、資本金又は資本積立金は減少しました。

平成13年度の税制改正で企業組織再編成関係の改正が行われ、株主に対する資産の交付がないみなし配当課税の取扱いが廃止され、配当可能利益の資本組入れ(無償増資)についてもみなし配当課税の対象外となりました。あわせて、資本積立金の規定が整備され無償増減資は、税務上はなかったものとされました(法人税法施行令第8➀十二、十三)。これらの規定は平成13年4月1日から施行されました。
   
平成16年に外形標準課税が創設され、資本割の課税標準である資本金等の額は、法人税法に定める資本金等の額から平成13年4月1日以後の無償減資の額を控除することとされました。

また、平成18年5月1日施行の当初の会社法計算規則においては、資本と利益峻別の観点からその他利益剰余金又は利益準備金を取り崩して資本金に組み入れることはできませんでした。

しかし、平成21年4月1日施行の会社法計算規則において、国際的な会計基準とのコンバージェンス(収れん)の必要性から、その他利益剰余金又は利益準備金の取り崩しによる資本組入れが可能となりました。
   
翌年の平成22年4月1日以後、外形標準課税の課税標準である資本金等の額の計算については、利益準備金又はその他利益剰余金による無償増資を行った場合、その増加額を加算することに改正され、さらに平成27年4月1日以後は、当該調整後の資本金等の額が、資本金と資本準備金との合計額を下回る場合は、資本金等の額は、資本金と資本準備金との合計額とされました。
   
住民税均等割の取扱いは、法人税法上の資本金等の額によって均等割の負担額を定めていたので、平成13年4月1日以後の無償増資及び無償減資は考慮されてきませんでしたが、平成27年の地方税法の改正で、外形標準課税における資本割の課税標準である資本金等の額の規定と同じ内容に改正されました。


5.実務への影響

無償減資については平成13年4月1日までさかのぼり、無償増資については、平成22年4月1日までさかのぼって確認する必要があります。申告に当っては、株主総会議事録、債権者に対する異議申立の公告(官報の抜粋)、株主資本等変動計算書等を添付します。

資本欠損がある会社に関しては、無償減資をすることで均等割の算定基準となる税率区分が下がり、法人住民税均等割が減少する可能性があります。

一方、自己株式を取得しているケースでは、上場企業等が市場取引により自己株式を取得する場合は、取得価額の全額について資本金等の額が減少することとなり、中小企業の場合は、みなし配当を除いた部分が資本金等の額の減少になります(法人税法第24➀四、所得税法第25➀四)。ところで、自己株式の取得によって、資本金や資本準備金の額は減少しませんので、資本金等の額が資本金及び資本準備金の合計額を下回ることもあり、法人住民税均等割が増加する可能性があります。